運動会の取り組みを通して~年長児O君の事例から~


1.意欲を見せないO君

身体が小さく何に対しても意欲が見られないO君。

無表情というか、いつも暗い顔で下を向いていることが多いので気になっていました。

こちらの言っていることが理解できているのか、自信がないのか、何度伝えても身体が動こうとしません。

クラスの中で一人だけ浮いているような存在です。

そんなO君のことが私は気にかかっていました。

運動会の時期になり、準備をそろそろはじめなければなりません。

取り組みの一つとして、一人ひとりが4段、5段の跳び箱に挑戦することになりました。

自分の身体より、大きな跳び箱を、怖さを乗り越えて向かっていかなければなりません。

目標は、“ワンチーム”として、一人残らず全員がクリアすること。

「みんなで頑張るぞ!」こぶしをあげていよいよ練習開始です。

 

まず、一段階として低い跳び箱を飛び越えること。

だんだん高くしていき、全員の子がクリア。

O君は、相変わらずお友達より「次だよ」と背中を押され、やっと前に進むといった状況でした。

次は、跳び箱に踏み台を付けて、ジャンプして飛び乗るという段階。

左右にしっかり足を広げないと跳び箱に引っかかり、ケガにも繋がりますので手をつく場所を指定しました。

 

O君は、依然としていつも一番最後に、私から手を引かれて歩いてきている状態です。

「O君、みんなも頑張っているから、O君も頑張って!」

「さあ、自分から走って、ジャンプして跳び箱に乗るんだよ!」

一つずつ何度説明しても、なかなか自分の意志で動こうとしません。

「みんなもしているでしょう!」

私のO君を励ましている言葉は、いつの間にかきつい口調に変わっていきました。

“みんな”にこだわっている自分が、時折空しくなることもありました。

 

いよいよ、本格的に跳び箱の練習がスタートです。

助走から踏み台での動き。

そして跳び箱に手をつく位置。

体重をしっかり前へ。

この3つを重点的に練習は続きました。

跳び箱の横に私はつき、安全確認をしてから、飛び越える子供たちの背中をグイと押します。

「やったー!先生、飛び越えたよ!」

「すごいね!とべたね!」

恐怖心もあり、なかなか思い切って飛べない子も、跳び箱に慣れるうち、少しずつ乗り越える力に変わってきているように感じました。

 

O君はほかの子がクリアしているのを尻目に、隅の方でうずくまって参加しないようになりました。

 

2.変わっていったO君

ある日、保育室へいくと子供たちが何やら騒いでいます。

「何をしているの?」

慌てて、私は子供たちのそばに寄りました。

するとO君を囲んで、みんなが低い馬になって、O君の高さに合わせて「馬飛び」をしていたのです。

子供たちが背中を丸め、

「O君、大丈夫だから、僕の上を飛んで!」

「O君、僕の上に上がっていいよ。僕大きいから!」

「O君!O君!……」

O君の表情をみると笑っています。

私は初めてO君の笑顔を見ました。

“にっこり笑いながら”子友達の背中に上がっているのです!

私も急いで、最後尾の“馬”になりました。

子供たちに「ありがとうね」といいながら。

 

その日から、Oくんが少しずつ変わっていきました。

一番最後に並んでいたO君は、列の真ん中に並んでいます。

「O君!O君!」の声が響き渡るようになりました。

子供たちのやさしさ、温かさがO君を包み込んでいるように見えました。

 

3.最後の運動会!みんなの心がひとつに!

いよいよ明日は年長さん最後の運動会。

最後の最後まで練習を続けるО君をみんなが応援しています。

O君以外の子は、4段、5段の跳び箱をクリアしました。

残るはO君。

「きっと大丈夫!最後まで頑張ることが大切だよ!」

私は励まします。

 

そして本番。

一人ずつ跳び箱を披露します。

練習の成果あってか、うまく踏み台でジャンプし、4段、5段の跳び箱を見事クリア!

さぁ、いよいよO君の番がきました。

私は心の中で叫びます。

「飛べなくてもいい!最後まで頑張れ!」

いつも無表情だったO君が、みるみるやる気に満ちた表情に変わっていきます。

そして…なんと!

前日まで1回も跳び箱を飛ぶことができなかったO君が初めて跳び箱を飛べたのです!

みんな目を見張りました。

私もびっくり。

本人もとっても嬉しそうです!

あの時の感動を私は忘れることが出来ません。

 

O君の成功体験は、今まで「どうせ僕はできない」とあきらめていた自分が変われた瞬間。

それは、自分だけの力ではなく、お友達みんなの優しい心が“ワンチーム”になった瞬間でした。

子供を信じ、子供に任せて見守っていけば、必ず子供が答えを出してくれます。

家庭的な問題ももちろんありますが、何かを“やらせる”のではなく、子供たちを信じ、見守っていくことがとても重要なのだと改めて感じました。

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