人は誰でも苦手なことがあります。
「逆上がりができない」のように出来ないから苦手という場合と、「高いところが怖い」
のようにその状況になると恐怖を感じてしまう場合があります。
今回は「??の状況が怖い」と感じてしまう子供に、どのように働きかけていくのかを考えてみましょう。
◯水が怖いYちゃん
Yちゃんはおっとりとした女の子です。
2歳児で担当した時に、前担当から「水を怖がる」という話を引き継いでいました。
普段手を洗ったりするのは大丈夫でしたが、夏の水あそびの時期にその言葉の意味がわかりました。
タライで自分で水を触ったりすることには抵抗はありませんでしたが、他の子が遊んで
いる時の水しぶきがほんの少しでもかかると火がついたように泣き始めます。
自分が意図しないときに水がかかることを極端に不快に感じるのです。
2歳児が水遊びを始めると、どうしても水しぶきが上がります。水をまきちらすのを楽しむ子もいます。
そんな中、Yちゃんはその場にいることすらできませんでした。
◯Yちゃんへの対応
水がかかるのを嫌がるYちゃんへの対応をどうするのか。クラスでも意見が分かれるところでした。
「水がかかるだけでも泣いてしまうのだから、体調が悪くて入れない子達と一緒に部屋
で遊ばせればいい」という意見と、「Yちゃんが大丈夫なやり方を探して水遊びをさせたい」という意見です。
担当である私の意見はもちろん後者です。
担当の意見を通させてもらい、Yちゃんはみんなとは離れた場所に小さなたらいを置いて遊ぶようにしました。
プリンのカップなどで水を救ったりして楽しそうに遊びます。
しかし「毎回誰がつくの?」という問題が生じます。
いくらたらいの水あそびとはいえ、一人でさせるわけにはいきません。
Yちゃんと関わって遊ぶことも大切です。
そこでバイトや、フリーの保育士(毎週交代)がついて遊びを保証していきました。
ただ、夏の少ない職員で回す中では、「今日はお部屋で遊ぼうね」となってしまうこともありました。
2歳の水遊びはそのように過ぎていきました。
◯幼児の大きなプール
幼児になると大きなプールに入るようになります。
私のいた園のプールは区内でもNo1の大きさで、大人でも手足を伸ばして泳げるほどでした。
大きいプールなので子供達の動きも大きくなり水しぶきもより多く上がっていました。
Yちゃんは水着には着替えるものの、やはりみんながいるプールには近寄ってきませんでした。
清潔のためのお尻洗いは、一人になってからお湯でそっとかけると体にかけても平気でした。
体を洗った後は、他クラスの水遊びの片隅で水を触って楽しんで過ごしました。
そして夏の終わりころ、みんなが上がったあとのプールのそばに行って、保育士と一緒
に手で水を触ったりちょっぴり足をつけてみたりします。
「水しぶきが上がらなければ大丈夫」と本人も自覚していったようでした。
4歳児のころは、Yちゃん専用のたらいを少しずつプールに近づけるようにしました。
Yちゃんも水しぶきがかかってもそんなに大騒ぎすることも少なくなってきていて、み
んなが遊んでいるのをじっとみていることもありました。
そこで、みんなが休憩で甲羅干しをしているときに、誰もいないプールに誘ってみることをはじめました。
階段状になっているところに立ってみたり徐々に座ってみたり、いつの間にか水に入る
ことに抵抗がなくなってきたように見えます。
そこで、仲良しの女の子を呼び入れて、温泉のようにみんなで肩まで浸かってみたり、
手をついてワニ歩きをしてみたりと様々な遊びができるようしていきます。
2歳の頃から見ると別人のように楽しめているYちゃんです。
仲良しの子が一緒ということも、Yちゃんの気持ちをほぐしたようです。
◯そして5歳児の夏
5歳の夏プールがはじまる時に、Yちゃんのお母さんが教えてくれました。
「Yは家でプールに入るって楽しみにしているんですよ」
一緒にそれを聞いていたYちゃんもニコニコしながらうなづいています。
「いっぱい遊ぼうねー」と声をかけながら、さて実際はどうかな?と様子を見ていきます。
シャワーこそ怖くてできずお湯のホースにしたものの、Yちゃんは楽しげにプールに入ることができました。
水しぶきが多い時は自分から端っこに逃げて背中を向けて顔にかからないようにしていました。
2歳、3歳、4歳の夏を経て、彼女なりのプールの楽しみ方を見つけたのですね。
◯苦手は無理強いでは治らない
Yちゃんは3年間をかけて徐々に水に慣れていきました。
あの時水遊びから遠ざけていたら、水に慣れるまでにもっともっと時間がかかったでしょう。
もしも無理やり水に近づけていたら、生涯を通して水に恐怖を感じていたかもしれません。
しかしYちゃんでなく別の子だったら、このやり方は通用しなかったかもしれません。
私がこの出来事を通して学んだことは
【子供の気持ちを汲み取りながら工夫していく】ということです。
集団で遊ぶんだから多数の方の行動に合わせなければ・・・と思う場面もあると思います。
それでも、苦手で尻込みしている子の気持ちが向くのをゆっくりと待つべきだと思うのです。
「嫌だな」と思うことを無理強いしない。でもそこから遠ざけない。
「やってみたいな」と感じた時にすぐに手を差し伸べられるようにする。
言うのは簡単ですが、とても難しいことです。
今あなたの周りにそんな子はいますか?
まずその子の気持ちに寄り添ってみてくださいね。