子どものこころと家族支援の重要さ~M君の事例を通して


4歳のM君は小柄でおとなしい子。

母親はシングルマザーで、M君と、2歳の弟を保育園に預けながら一生懸命働いています。

 

ある日の保育園での出来事です。

周りのお友達がいいました。

「M君、何か臭いがする!」

 

M君は最近、同じ服を着てくることがあり、少し気になっていました。

お友達がいうように、確かにM君からは独特な臭いが感じられます。

私は、M君に聞きました。

「ねぇ、M君。昨日お風呂に入った?」

M君は言いたくなさそうに首を横にふります。

 

そんなM君に私は

「そうか。じゃあ下着だけでも着替えておいで」

とだけ言いました。

 

その次の日の出来事です。

私が出勤すると、保育室1階の天井がしみてきているのに気がつきました。

「雨もふっていないのに…」

不審に思い、私が2階に上がっていくと、なんと2階の保育室が水浸し!!

そして、そこには水道の水でM君の身体をごしごしと一生懸命洗っているSくん。

Mくんは裸ん坊、S君の洋服はびしょぬれ。

水はしゃあしゃあどんどん流れ、床にあふれるほど。

びっくりした私は、水道をすぐにとめ、足ふきマットを何枚ももってきて急いでふきとりました。

「どうしたの!!」

私は大きな声で尋ねます。

すると、S君はいいました。

「Mくんが昨日もお風呂に入っていないと言っていたから、僕が洗ってあげようと思って」

 

私はそこで、はっと気が付きました。

S君は、きっと昨日の私の言葉を聞いていたのだと思います。

お友達から「何か臭いがする」といわれているM君に、私が「お風呂にはいった?」と尋ねていたことを。

少なくとも、ほかの子供たちの前で聞くべきことではなかった、と私は深く反省しました。

 

M君の身体を素手で一生懸命洗うS君の表情から、何も意地悪なものは感じとれません。

S君は本当にただ単に、M君の身体をきれいにしてあげたかったのでしょう。

子供のほうがとてもやさしい心をもっています。

 

「大変だよ!早く水を拭き取らなくちゃ!さあ一緒に頑張ろう!」

3人で必死になって水を拭き取りました。

 

自分の言葉がもしかしたら、この子供たちを不安にさせてしまったかもしれない…そう思うと、ひと段落した後も、私は何を言うべきなのかとても迷いました。

こういうことをしてしまった子供たちの責任はすべてわたしにあるからです。

自分の言っている何気ない言葉。

その言葉が子供たちを傷つけているかもしれない、と発言を振り返り保育の在り方を考えさせられました。

 

S君は、自分のことでないにもかかわらず「友達のために」と、きちんと受け止めていたのです。

M君は、S君が自分のことを思って身体を洗ってくれることが嬉しかったのでしょう。

 

「ごめんね、先生が悪かった。Mくんが毎日元気で保育園に来てくれたらそれでいい。ごめんね」

とM君に謝りました。

そして、S君にも

「M君を思う気持ち嬉しかったよ、ありがとう」

と伝えました。

すると、2人から

「先生ごめんなさい」という言葉が返ってきたのです。

 

それからMくんの家庭のことが気になり始めました。

保育園にくるときは、朝食は食べてくるのが基本ですが、昼食の時にM君がかぶりつくほど速く食べているのが気になってきました。

「ご飯はちゃんとたべれているのかな?」

 

とうとう母親に連絡をし、M君の家庭内の様子を知るため面談をしました。

保育園でのM君の様子を話すと、母親は涙ぐみながら、

「私が悪いんです、身体の調子が悪くてずっと寝ています。何をする気にもなれなくて、ごめんなさい。」

言葉少なげにただ涙ぐみます。

専門の機関に相談することを伝え、こちらからもこどものSOSの連絡ネットワークに相談するようにしました。

 

保育士は、ただ保育園で子供たちの保育をするだけが仕事ではありません。

保育園にくる子供たちの中には、複雑な家庭環境の子もいます。

それぞれの家庭環境を考慮し、子供だけではなく、保護者もサポートすることも保育士の重要な役目です。

保育園での子供たちの体調はもちろん、精神的なフォローや、保育園でみせる小さな変化、それを私たち保育士は敏感に感じ取り、密に保護者とコミュニケーションをとる必要があります。

子どもたちを預かっている以上、子どもの心身の健全な成長を助け、家族支援を行うことも私たちの重要な仕事だと感じています。

 

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