子供の心に寄り添うということ~S君の事例を通して~


いつも忘れ物の多い5歳のSくん。

毎日保育園に持ってこなければならない水筒やタオル。

「連絡帳にかいているからママに見せてね。」

そう本人に言って連絡帳を渡しても持ってくる気配はありません。

いつも保育園のお迎えがママだったのが、最近パパになり気になってはいたのですが。

 

明日はクッキングの日。

みんなでクッキーを作ります。

先日のお餅つき大会の時も、S君だけエプロンと三角巾を忘れていたので、エプロンと三角巾を忘れないでママにきちんと伝えてね、と私は再度念を押しました。

 

クッキング当日。

「エプロンと三角巾を自分でつけられる子は準備して待っていてください。今からクッキーを作りますよ~。」

私は、子供たちにそう伝え、給食室へ準備のお道具を取りに行きました。

保育室に戻ると、なんとS君がエプロンと三角巾を付けてお椅子に座っています。

「えーー!S君、昨日ママにきちんと伝えてくれたんだね!偉いね!」

というと、ちょっと照れくさそうに

「K君がかしてくれた」

と言いました。

「えっ」

よく見るとK君は、いつも給食の時に使っている保育園用の白いエプロンと三角巾を身に着けています。

私はK君に尋ねました。

「どうしたの?」

K君は言います。

「僕のエプロンと三角巾をかしてあげたの。僕は今日これでいいよ」

 

S君の忘れ物が多いこと、そしてそれを指摘していた自分がいること。

それを見ていた子供たちがいるということ。

私は、K君の言葉を聞いて、はっとし、そのことに気づきました。

 

私は、今度はS君に尋ねました。

「僕、エプロンと三角巾を忘れたの。そしたらK君が僕のをかしてあげるからねっていって貸してくれたの。」

K君にきくと、

「S君がまた忘れて困るかなと思って」

二人は顔を見合わせて笑顔で微笑んでいました。

 

困っているお友達を助けたK君、そして、助けてもらったS君。

お互いが、気持ちよくその場を過ごしていました。

 

私は二人に謝りたい気持ちでいっぱいになりました。

本当は先生がS君のエプロンと三角巾を用意しておかないといけないはずなのに

私たちは、どうしても子供の背景に眼を向けがちです。

子供が困っているのに、どうしてママは子供の気持をわかってあげられないの…。

出来ないならできないで連絡くれたらいいのに…。

家族はS君を大切に思っているのか。

 

でも結局S君を救ってくれたのはK君でした。

「困っているから助けてあげたい」

その素直な表現ができる子供の世界を私たちは学ばなければいけません。

本当のやさしさとは何かということを、K君が私に気づかせてくれました。

 

そして迎えた卒園式の日。

卒園式にはS君のママの姿はなく、パパが出席していました。

そこでなんとなく私は察しました。

 

卒園式では、子供たち一人一人が、その場で保育園での思い出をはなさなければなりません。

S君は自分の話になると泣きじゃくり、言葉になりません。

とうとうその場に座り込んでしまいました。

彼の中にあふれる何かがあったのでしょう。

 

帰り際、私はS君のパパに言いました。

「S君のことをもっと理解できていればと反省しています、すみませんでした。」

するとパパは

「いや、僕も妻が帰ってくれると信じていたものですから、どうしても言えませんでした。Sは言っていなかったですが、本人なりに気づいていたようです。Sとこれから二人で頑張っていきます。こちらこそありがとうございました。」

そこで初めて知ったのですが、S君はパパに気づかい、あのクッキングの時の連絡帳はパパに見せていなかったようです。

 

誰にも言えない彼の心の闇。

小さな身体で、その闇をひとりで抱えていたことを知ると、私は胸が張り裂けそうでした。

 

自分の心の中を十分に伝えることができる子もいれば、閉ざす子もいます。

私たちは、限られた保育の時間の中で、色々な個性をもった子どもがいることをしっかり捉える必要があります。

“子どもの心に寄り添う”ということはどういうことか、S君が私に教えてくれました。

 

 

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