おかあーさん、なあーに おかあさんっていーにおいー

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新しく園に入ってきた子たちの泣き声が響き渡る4月。
2歳児クラスでも、すぐに慣れてしまう子もいれば何日も泣き続ける子もいました。

保育士の腕の見せ所とばかりに、私は泣く子を抱きかかえ、ぬいぐるみを見せたりブロックを見せたり音のなるおもちゃで誘ったりと、あの手この手でお母さんを忘れて遊べるようにとしていました。

一日でも早く慣れて欲しかったからです。
「泣かないよ~」なんて歌ったりもしました。

そこにやってきたのが主任保育士。
転勤したばかりの私の耳には「あの先生は怖くて厳しいよ」という噂が届いていました。

緊張が走ります。

主任は泣いている子に「お母さんがいいよね。いいよ、お母さーーんってもっと泣きなさい」と語りかけました。
私は心の中で「えぇーっ」と叫んでいました。
どうにか泣き止ませて遊べるようにと努力しているのに、「お母さん」を連呼してさらに泣かせているのですから。

びっくりが顔に出てしまっていたのか、主任が話してくれました。

「お母さんにいっぱい甘えたい時期に急にお母さんから離れて不安でいっぱいなのに、お母さんを思い出しちゃダメなんて辛いでしょ?
気が済むまでお母さーーんって呼ばせてあげて。先生はそれを受け止めて」

そう言うとまた「お母さんがいいねー。会いたいねー」と話しかけ、
「おかあーさん、なあーに おかあさんっていーにおいー・・・」と歌いはじめました。

まずは一緒に歌いながら、私もやってみようと決意。
そこから「お母さーーん」「お母さんがいいねー」のやりとりを何度も繰り返しました。

そのうちに「お母さん大好きね。お母さんお迎え来るからねー」と言う言葉に子供がうなずくようになりました。
あぁ、少しだけど気持ちが通じてきたなーと思えました。
そこから、ブロックの車で「ブッブーーお母さんのところにシュッパーーツ」と遊びへと広げることができるようになってきたのです。

これが慣れていくってことなんだなーと、改めて主任の保育を見てみました。
「お母さん」の歌を歌うその表情は、優しさそのものでした。

主任は後でこっそり話してくれました。
「お母さん」って呼ぶと自分が大人になった今でも胸があったかくなるのよね。
「お母さん大好き」って一生言いたい言葉だわ。

そんな素敵な言葉を危うく押しつぶしてしまうところだったのです。
ここで教えてもらえて本当に良かったと心から思いました。

厳しいと噂の主任はたちまち、大好きな大先輩に変わりました。
そして、「お母さん」の歌は4月の私のテーマソングになりました。

毎年歌を歌うたびに、保育の根っこの大切なことを教えてくれた主任の笑顔が思い出されます。
今はどこで笑顔を振りまいているでしょうか。
お孫さんの優しいおばあちゃんになっていますね、きっと。

 

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