「私は責められているんでしょうか」〜ある保護者の嘆き〜


今回は、ある保護者の視点で書いた話です。
この話を是非「保護者」になった気持ちで読んでみて欲しいと思います。

 

・・・Aくん(1歳児クラス)のお母さん・・・

その日も雨がザーザーと降っていた。
梅雨に入った途端雨が続いていて保育園にお迎えに向かう足取りも重くなってくる。

「あーダメダメ、急いで迎えに行って急いで帰って急いでご飯作って、それから山のような洗濯物を片付けなくちゃ」

梅雨に入ってから洗濯物が乾かなくて、昼間も家の中に干しっぱなしで出かけなければならない。

夏なら2階のテラスに干して出かければしっかり乾くのに、梅雨時は乾いてないような乾いているような微妙な洗濯物が家中にぶら下がっている。
特に息子はよだれがたくさん出るので、よだれかけの枚数が半端ない。

「今日も持ち帰りの洗濯物多いかなぁ」

そんなことを考えていたら、また気持ちが重くなってきた。

どろを跳ね上げないように、園庭の水たまりの中をそっと歩いて保育園の玄関についた。
すると、1歳児の息子のクラスからちょうど担任が顔を出したところで目があった。
先生はすぐに顔を引っ込めて、中にいる保育士に何かを言っているようだった。

 

嫌な予感がした。

すぐに「お帰りなさい」と言われない時は、必ず何か言われる時だ。
息子が私の顔を見る前に引き止められて、少し長めの話をされるのだ。

 

傘の水滴を落として傘立てに入れていると、案の定、先生は玄関に向かって小走りでやってきた。

 

「お帰りなさい。今ちょっといいですか?」

「あ、はい、少しなら」

何の話かわからないけれど、正直早く帰りたいな……と思いながら返事をした。

 

「Aくんなんですけど、ここのところすごく機嫌が悪いんですよ。今日もずっとぐずっててなかなか遊べなくて。あとご飯の時も嫌がっておわんを手で払いのけちゃって、Tシャツまでシチューがこぼれちゃったんです。それからちょっとお友達にも攻撃的っていうか、噛まないんですけど噛むようなそぶりを見せたりして」

 

先生はここまでを一気に話してきた。

 

「あ、はぁ。あ、すみませんでした」

なんか、なんて答えていいのかがよくわからなくてつい謝ってしまった。
そして頭の片隅では、シチューでベタベタのTシャツの洗濯が大変だなーとぼんやり考えていた。

すると先生は私のそんな様子には気がつかないのか、言葉を続けた。

 

「朝ごはんとかちゃんと食べてますかねぇ。朝ごはんとかしっかり食べないとエンジンがかからないことってあるんですよ。菓子パンとかだと元気が出ないっていうか……」

まだ話そうとする先生を遮るようについ返事をしてしまう。

「あ、結構食べてますよ。おにぎりとか、食パンとか、あと味噌汁とかも」

 

先生は軽くうなづきながら、さらに続けた。

「あ、じゃあ夜は早く寝てますか? 寝不足はやっぱり機嫌にすごく影響するんですよ。DVDとかスマホとか見せたりしたら脳が興奮して寝られないってこともあるし」

「うちはスマホは触らせてないです。DVDも休みの日にしかつけてないですよ? 夜も、時間はバラバラだけどちゃんと寝てますけど」

そう答えながら、なんかだんだんと嫌な気分になってきた。
機嫌が悪いって言うけど、こんなに雨ばかりならみんなそうなるんじゃない?
少なくとも、私は機嫌が悪い。今は特に!!

でも先生には言い返すことなんてできない。
でも何だかモヤモヤする。

 

「まあ、お家でも生活リズム見直してみてくださいね。やっぱり小さいうちはリズムが大事ですからね」

「あ、はい。わかりました」

返事をしながらも、何だか意味がわからない。

先生はなにが言いたいの?
機嫌が悪いのは全部、私が生活リズムを整えてないせいなの?
そんなに乱れた生活しているように見えるの?

 

「じゃAくん待ってますよー」

先生は先にパタパタと行ってしまった。

 

ゆっくり歩きながら、先生の言葉をまた思い出す。
やっぱり責められたんだよね?
家の生活リズムが乱れてるから、機嫌が1日悪いですよって言われたんだよね?

 

何だか急に胸が重くなってきたような気がした。

 

保育室に着くと息子が抱っこされて出てきた。

「はーいお母さんおかえりなさーい」

手渡された息子のよだれかけはびしょびしょに濡れていた。

心の中で「こんなびしょびしょじゃ機嫌も悪くなるよね」と叫んでいた。
できるだけ先生の顔を見ないように帰りの支度をして、早々に玄関に向かった。

暗くなってきた外は、ますます雨が強くなっていた。
抱っこひもで密着した息子の体を、濡れないようにさらに抱きしめて、傘を差し雨の中に踏み出す。

強く傘に打ち付けられる雨音が、私の胸にも響いていた。

 

****************

 

私たち保育士は子供の成長を願い、日々の出来事を伝え、より良い生活をして欲しいと思って保護者に声をかけます。

誰も、嫌な気持ちにさせようとは思っていませんし、相手を苦しめようとも思いません。

でもこの話のように、投げかけた言葉が思わぬ形で相手に刺さってしまうことがあるのです。

 

このお母さんにはどうやって声をかけてあげればよかったのでしょうか?
少し視点を変えて考えてみると答えが見えてきます。

 

Aくんの機嫌が悪いのは本当に家の生活リズムだけが問題ですか?
保育室の環境はどうだったでしょうか?
濡れたままのよだれかけはどうすればよかったですか?
雨が続く毎日で、保育の内容はどうだったでしょうか?

 

それぞれの保育士のそれぞれの言葉で、伝え方を考えてみましょう。

 

 

私ならこう切り出します。

「お母さん、Aくんは朝いつもしっかりご飯食べてますよね? 梅雨に入っておうちで少し食欲落ちてますか? 実は園での食事があまり進まなくて、機嫌も少し斜めになりがちなんです。ご飯の量が少ないからか、遊ぶときもなかなかご機嫌が直らないことがあるんです。園でも暑かったりちょっと寒かったりでなかなか快適に過ごせてないかもしれないんですけど、おうちの様子も教えてもらえますか?」

 

機嫌が悪い原因をお母さんと一緒に探りたいんだ、という気持ちを添えるだけで、印象がガラリと変わってきます。

たとえ原因が家庭にあると確信していたとしても、そこにいきなり切り込んではいけません。

 

子供が機嫌が悪く調子今ひとつの時は、親もまた調子が優れないことが多いからです。

 

雨の日に心まで雨模様にさせないように。
少しの工夫をしていきましょう。

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