保育記事の参考になるものはないかと本棚を探していたら、転勤の時にもらった寄せ書きが出て来ました。
「懐かしいなー」と眺めていると、後輩からの言葉が目にとまりました。
「これからも【命】の合言葉忘れません」
はて?なんのことだっけ?しばらく固まったまま考えて、やっと思い出しました。
今回はそんな【命】の合言葉の話です。
人手が足りない
それは今から数えると、もう20年くらい前の話になります。
私は年長、後輩は3歳児担任でした。
他は私より先輩だったと思います。
その年、ものすごく人手が足りなかったのです。
理由は覚えていません。
突発的な何かがあったのか、4月から人手不足だったのか・・・(記憶がすっかり飛んでしまいました)
とにかく毎日が手が足りず、週休の(土曜出勤分の振替休み)保育士がいるとそれはもう綱渡りのような状況でした。
それでも、幼児クラスのチームワークはとてもよくお互いに声を掛け合って日々を乗り切っていたように思います。
ところが、まだ経験の浅い後輩保育士は、日に日に表情が硬くなり笑顔が消え常に何かに追いかけられるようなそんな様子になってしまいました。
もうここに書くまででもありませんが、日々の事務・保護者対応・保育計画・反省・行事の準備・・・全部が彼女を焦らせていたんだと思います。
もちろんそれは私たちも同じでした。
みんな疲れがたまり、イライラして、簡単なこともうまくいかなくなっていく。
そんな危険な状況でした。
そんなある日、私は(誰にかは忘れたのですが)あることを話しました。
「保育で一番大事なのって子供達の安全ですよね?こんな人手が足りなくて、事務がたまってイライラしてたら、安全な保育なんてできないですよね?私決めました。子供の大切な命をその日のお迎えでお母さんたちに無事に返すことを一番大事にします。もうね、命があったらそれでいいです」
今思うとなんて大胆なことを言ってしまったんだと思います。
でもその時の私たちには、とても救いのある言葉になったのです。
その言葉を幼児担任みんなに伝えると
「そうだよね。命だよ。一日無事に過ごして元気に家に帰ればそれが一番だよね」
「そうですよ。書類提出遅れたらみんなで怒られましょう。あははは」
みんな笑顔で受け入れてくれました。
もちろん、他をおろそかにしたわけではありません。
変わらず、仕事には追いかけられていました。
でも
「今日もみんなの大事な命を親にちゃんと返せたね」
「立派だね」
と、気持ちをどんどん楽にできていったのだと思います。
辛そうな顔をしていたら
「命、命(^0^)」
朝も「合言葉は命で(^0^)」と笑顔で始まっていました。
もしもこの時、一人でも「ダメだよ、みんな完璧にしなくっちゃ」という保育士がいたら・・・
全員がくじけていたかもしれません。
そして一番大事なものに目が向かなくなり、大きな事故が起こっていたかもしれません。
人間は気持ちの持ち方が大事だと改めて思いました。
「事務や行事が大変で保育士も少なくて、子供の安全管理がおろそかで事故が起こりました」ということと
「子供の安全管理を大切にしていて、全力で子供と関わっていたので書類が全然書けていません」のどちらがいいかなんて聞くまでもありませんよね。
今も昔も
20年近く前のことですが、公立でもこんなに人手がなかったのか・・・と改めて思い出しました。
おそらく、公立から民間への委託の話が出始めた時期だと思います。
新人の採用も控えるようになり、保育士が少ない中、ギリギリの人数のクラスにさらに子供を増員して受け入れることもあったと記憶しています。
公立ですからもちろん最低の保育士人数は保障されていました。
それでも日々、綱渡りの保育。
しなければいけないことに押しつぶされそうな心。
声にしなければ忘れてしまいそうな「命を守る」保育。
冷静に考えればあり得ない状況です。
でも、その状況って今も続いているのではないでしょうか。
あれもしなくちゃ、これもまだだ、それは誰がやるの?
なんて浮ついて、焦る心の隙間で事故が起こるのだと思います。
もっと保育士がいれば、もっと余裕があれば・・・
20年もの時がたっても何も変わっていないのは、重く受け止めるべき事実ではないでしょうか。
それでも言い続けましょう
考えるべき問題が山積みの今だからこそ、言い続けませんか?
一番大切なのは「命」です。
今日も大切な小さな命を無事に親元に帰すまで、「命を大切に保育しよう」と確認しあいましょう。
小さなミスで大きな事故が起こらないように。
後輩の寄せ書きのことばからの、大切なメッセージだと受け止めています。